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デジタル・トランスフォーメーションは、主に情報やデータを扱う企業 (金融サービス、通信、小売り等) に影響を与えることが広く知られている一方で、製造業の世界にも大きな変化をもたらしています。生産システムのコンピュータ化および変革に向けたこの進化は、「インダストリー 4.0」と呼ばれています。

ところで、インダストリー 4.0 とは何でしょう?それを可能にするテクノロジーは?また、オペレーショナル・テクノロジー (OT) 環境が変化する際のメリットと課題は何でしょう?

インダストリー 4.0 とは?

第四次産業革命としても知られるインダストリー 4.0 は、新たな最先端技術の出現とその採用により可能になります。この技術は情報テクノロジー (IT) とオペレーショナル・テクノロジー (OT) の間の明確な境界を消し去り、デジタル・トランスフォーメーションを製造現場にもたらします。

これには、ビッグデータ、ビッグデータ解析、ロボティクス、エッジコンピューティング、3D 印刷、人工知能/機械学習 (AI/ML)、ハイブリッドクラウド・コンピューティング など、多くの最先端技術が含まれます。

オペレーショナル・テクノロジーとは?

オペレーショナル・テクノロジーには、実際の製造プロセスを制御するハードウェアおよびソフトウェアが包括的に含まれます。産業用制御システム (Industrial Control System)、プログラマブル・ロジック・コントローラー (Programmable Logic Controller)、監視制御/データ取得システム (Supervisory Control and Data Acquisition System) が OT の例です。

伝統的に、この技術は非常に特殊で他のシステムとは切り離される傾向にあり、多くの場合、クローズドの独自プロトコルを使用していました。そのような OT は、データおよび通信のサイロを形成する傾向にあり、その結果効率性に劣り、利用可能なデータを効果的に共有して活用することが、不可能でないにしても困難でした。インダストリー 4.0 により、これらの制約が取り払われます。

インダストリー 4.0 の背景

歴史的な背景を理解できるように、まず、最初の 3 つの産業革命について考えてみましょう。

産業革命

単に産業革命とも呼ばれる第一次産業革命は、従来の生産方式 (すべてのことが主に手作業で行われていました) が新しい機械化された製造プロセスに置き換えられた、包括的な変革の時期でした。

これを可能にした技術は、新しい動力源 (蒸気や水力など)、鉄鋼の使用範囲の増大、内燃機関や動力織機といったさまざまな新しい発明などでした。

イギリス、ヨーロッパ、そして米国では 18 世紀に産業革命が始まりましたが、世界の他の国々は遅れをとり、これらの地域では、(時にはかなり) 後になってから産業革命が起こりました。

第二次産業革命

テクノロジー革命としても知られる第二次産業革命は、19 世紀の終わりから 20 世紀前半にかけて起こりました。

これは、産業が爆発的に発展した時期で、効率が大幅に向上した鉄鋼の生産、動力源および照明への電気の使用、工作機械、石油の生産や精製、電信および電話、自動車、鉄道システムの構築など、さらなる発明や科学的な発見によりそれが可能となりました。

第三次産業革命

デジタル革命としても知られる第三次産業革命は 20 世紀の後半に始まり、現在に至っています。

ご想像のとおり、デジタル革命には、デジタルコンピューターの急速かつ広範な導入という特徴があります。数え切れないほど多くの技術の進歩がこれを可能にしましたが、主な例としては、コンピュータの大量生産と広範囲にわたる導入、インターネットおよび World Wide Web (WWW) の考案、そしてスマートフォンの創造と普及が挙げられます。

第四次産業革命

私たちは今、デジタル革命の基盤の上に直接構築され、今日の製造プロセスに大きな影響を与えている第四次産業革命、あるいはインダストリー 4.0 の時代にいます。

当然ながら、時代の変化や技術の進歩の速さから、インダストリー 5.0 や、類似の次世代の進化についての会話が行われています。たとえば日本では、これまでの 4 つの社会ステージ (狩猟、農耕、工業、そして情報) の上に構築される「Society 5.0 (ソサエテイ 5.0)」が話題に上っています。しかしここでは、インダストリー 4.0 と、それが OT の変革を可能にする流れについて見ていきましょう。

インダストリー 4.0 テクノロジーと OT の変革

コンピュータとインターネットの開発と爆発的な成長によってデジタル革命が可能になったのに対し、インダストリー 4.0 は、そのデジタル基盤の上に構築されると共にその基盤を発展させ、OT の変革を可能にする土壌を育みます。

第三次産業革命では、コンピュータが工場に登場して浸透しましたが、これらのコンピュータは個別のサイロで運用されるのが通常で、それぞれが独立して機能していました。そこではデータが可視化され、他のシステムからアクセスされたり共有されたりすることはありませんでした。第四次産業革命では、これらのサイロが解体され、データがますます可視化され他のシステムからアクセスされるようになります。これにより、これまで不可能だったより詳細な分析、より高い効率、グローバルでの最適化レベルが可能になります。

OT の変革は、以下に挙げる幅広いさまざまなテクノロジーにより可能になります。

  • エッジコンピューティング

  • ロボティクス

  • デジタルツイン

  • サイバー物理システム

  • モノのインターネット (IoT)

  • ハイブリッドクラウド・コンピューティング

  • ビッグデータ、ビッグデータ解析、およびデータの視覚化

  • モバイルデバイス

  • 拡張現実とウェアラブル

  • サイバーセキュリティの改善

  • 第 4 世代および第 5 世代のワイヤレス (4G および 5G)

  • ハイタッチの顧客とのやり取りおよび詳細な顧客プロファイリング

もちろんこれがすべてではありませんが、あらゆる場面でデータを生成、取得、処理、および活用することを可能にするテクノロジーについて、イメージが得られると思います。オペレーショナル・テクノロジーの進歩と組み合わせると、近代的な産業運営における基盤のシフトが可能になり、OT の変革につながります。

IT と OT の融合

組織が情報テクノロジーとオペレーショナル・テクノロジーシステムを接続し、特殊な専用の OT システムをソフトウェア定義のアプローチと既製の IT ハードウェアに置き換え始めると、IT と OT の融合が生じます。

この融合により、組織は保有するデータをより有効に活用できます。製造現場のシステムを制御する OT によって生成されたデータは、処理と分析のために IT に渡され、製造プロセスの変更または最適化に使用できます。

IT と OT の融合により、フロントローディングの問題解決も可能になります。設計および開発プロセスの早い段階で潜在的な問題を特定して解決できるため、時間とコストの両方を節約できます。

もちろん、IT もこの融合の影響を受けます。セキュリティ、信頼性、低いレイテンシーなど、OT 分野からの要件によって変化します。

OT の変革によるメリット

これらの新たなテクノロジーおよび IT と OT の融合によって実現可能になる OT の変革には、製造業にとって重要な多数のメリットがあります。その例を以下に示します。

  • 製造品質および製造プロセスの性能や可動率が改善され、設備総合効率 (OEE: Overall Equipment Effectiveness) が向上する。

  • AI/ML による予知保全により、設備の故障による生産のダウンタイムが削減される。

  • 意思決定に必要な正確でタイムリーな情報提供により、作業者の効率と効果が向上する。

  • 最小限の人間の介入で生産を管理および最適化できる、高度に自律的な「スマートファクトリー」。

  • 消費者からの期待と要求がますます高まる「マスパーソナライゼーション」(カスタマイズまたはパーソナライズされたアイテムの大量生産) が可能になる。

  • AI/ML を使用して、潜在的な問題を予測し、問題が発生した際の処置を規定することで、在庫、設備、およびプロセスを最適化する。

OT の変革およびインダストリー 4.0 のメリットはこれだけではありませんが、情報テクノロジーとオペレーショナル・テクノロジーの融合により実現可能な改善と効率化の一部を示しています。

OT 変革の課題

もちろん、セキュリティーや力量の不足など、OT 変革の導入および採用の制限となる課題が多数あります。

  • サイバーセキュリティーの脆弱性は常に懸念事項であり、IT/OT の融合によりアタックサーフェス (攻撃対象領域) が広がる場合はなおさらです。

  • スキルセットと力量の不足は、すでに デジタルトランスフォーメーションの取り組みに対する主要なリスクとして認識 されており、特有のスキルと経験を持つ OT スペシャリストの退職により、インダストリー 4.0 ではそれがより顕著です。

  • 既存アセットのインテグレーション。特に OT 設備の長いライフサイクル (通常は 10 年をはるかに超えます) を考えた場合、膨大な数のプロトコル、インタフェース、およびオープンスタンダード (数の多少はありますが) があります。

  • 生成されるデータの量が急速に増加する可能性があり、その結果、ストレージおよび処理能力増強の必要性が高まると共に、特有のスキルを持ちトレーニングを受けたデータスペシャリストが必要になります。

これまでと同様に、組織が直面する OT の変革とインダストリー 4.0 の課題はこれだけではなく、対応が難しい場合もありますが、克服できない訳ではありません。

まとめ

インダストリー 4.0 による業界のデジタル・トランスフォーメーションには多くの課題がありますが、それにより大きなメリットと効率が得られます。情報テクノロジーとオペレーショナル・テクノロジーを組み合わせることで (IT と OT の融合)、業界はより効率的になり、回復力と応答性が向上し、顧客、従業員、組織全体に利益をもたらします。

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執筆者紹介

Deb Richardson joined Red Hat in 2021 and is a Senior Content Strategist, primarily working on the Red Hat Blog.

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