要約:Red Hat では、オープンソース AI の最小基準を、オープンソースでライセンスされたモデルの重みとオープンソースソフトウェアのコンポーネントを組み合わせたものと考えています。
Red Hat は 30 年以上前から、オープンソースの開発とライセンスによってより優れたソフトウェアを作成して IT イノベーションを促進できるという可能性に注目してきました。後にコード 3,000 万行の規模になった Linux は、最も成功したオープンソースソフトウェアであるだけでなく、これまでで最も成功したソフトウェアへと発展を遂げました。オープンソースの原則へのコミットメントは今も、Red Hat のビジネスモデルだけでなく企業文化においても続いています。これらのコンセプトは、適切な方法で実行すれば、人工知能 (AI) にも同じ効果をもたらすと考えています。しかし、何が「正しい方法」かについてはテクノロジーの世界でも明確に意見が分かれています。
AI、とくに生成 AI (Gen AI) を推進する大規模言語モデル (LLM) は、オープンソースソフトウェアと同じ考え方で扱うことはできません。ソフトウェアとは異なり、AI モデルは主にモデルの重みで構成されています。重みとは、モデルが入力を処理する方法とさまざまなデータポイント間の結合を決定する、数値パラメーターです。トレーニング済みモデルの重みは、入念に準備、混合、処理された膨大な量のトレーニングデータを使用した、広範なトレーニングプロセスの結果です。
モデルの重みはソフトウェアではありませんが、いくつかの点でコードによく似た機能を提供します。データをモデルのソースコード、またはそれに類似したものと比較することは容易です。オープンソースでは、ソースコードは一般にソフトウェアに変更を加えるための「推奨される形式」として定義されています。しかしながら、トレーニングデータ単独ではこの役割には適しません。通常はデータのサイズが膨大な上に、事前トレーニングプロセスが複雑であるため、トレーニングデータの各項目が持つ、トレーニング済みの重みとモデルのトレーニング結果の動作との関連性が弱く、間接的になるためです。
現在コミュニティで行われている AI モデルの改良と拡張の大部分は、元のトレーニングデータにアクセスしたり操作したりしていません。実際はモデルの重みの修正、すなわちファインチューニングのプロセスの結果であり、これによってモデルのパフォーマンスの調整も実施できます。このようなモデルを自由に改良できるようにするには、オープンソースライセンスでユーザーが使用できるすべての権限を付与して重みを公開する必要があります。
Red Hat のオープンソース AI に関する見解
Red Hat は 、オープンソース AI の最小しきい値を、オープンソースでライセンスされたモデルの重みとオープンソースソフトウェアのコンポーネントとを組み合わせたものと考えています。これはオープンソース AI の出発点であり、最終的な目的地ではありません。Red Hat はオープンソース・コミュニティ、規制当局、業界に働きかけ、AI モデルのトレーニングやファインチューニングにおいて、透明性の向上とオープンソース開発の原則との連携に向けて引き続き取り組んでいきます。
ここでお伝えしているのは、Red Hat がオープンソースソフトウェア・エコシステムとしてオープンソース AI に実際に取り組む方法に対する Red Hat の見解です。これは、Open Source Initiative (OSI) が Open Source AI Definition (OSAID) で実施しているような、正式な定義を確立しようとする試みではありません。これまでの Red Hat の視点は、オープンソース AI を広範なコミュニティ、組織、ベンダーにとって実現可能にし、利用可能にするためには何が必要かという見解に過ぎません。
Red Hat は、Red Hat 主導の InstructLab プロジェクトや、IBM Research とのオープンソース・ライセンス・モデルの Granite ファミリーに関する取り組みなどに代表される、オープンソース・コミュニティでの活動を通じてこの視点を実行に移しました。InstructLab は、データサイエンティスト以外のユーザーが AI モデルに貢献する際の障壁を大きく低減します。InstructLab を使用すれば、さまざまな業界のドメインエキスパートがスキルと知識を InstructLab に追加し、社内で使用すると同時に、アップストリーム・コミュニティ向けの広くアクセス可能な共有オープンソース AI モデルの推進を支援することもできます。
Granite 3.0 モデルファミリーは、コード生成から自然言語処理、膨大なデータセットからの知見の抽出まで、幅広い AI ユースケースに対応しており、寛大なオープンソースライセンスの下で実行されます。Red Hat は IBM Research が Granite コードモデルファミリーをオープンソースの世界にもたらし、オープンソースの観点からも Red Hat AI オファリングの一部としても、モデルファミリーのサポートを継続できるように支援しました。
最近発表された DeepSeek による影響は、オープンソース・イノベーションがモデルレベルのみならず、それを超えたレベルで AI に大きな影響を与えることを 示しています。DeepSeek のアプローチには明らかに懸念があります。このモデルのライセンスではモデルがどのように作成されたかを明らかにしておらず、透明性の必要性がさらに高まっています。とはいえ、この破壊的革新は、AI の未来はハイブリッドクラウドのどこでも特定のエンタープライズデータのユースケースに合わせてカスタマイズできる、小規模で最適化されたオープンモデルを中心としたオープンな未来であるという、Red Hat の見解を肯定するものです。
モデルを超えてオープンソース AI を拡張する
オープンソースのテクノロジーと開発の原則は、Red Hat AI ポートフォリオがそうであるように、AI オファリングの中核をなしています。Red Hat OpenShift AI は、Kubernetes、KubeFlow、Open Container Initiative (OCI) に準拠したコンテナ、およびその他の多数のクラウドネイティブなオープンソース・テクノロジーを基盤として構築されています。Red Hat Enterprise Linux AI (RHEL AI) には、IBM のオープンソースライセンスの Granite LLM ファミリーと InstructLab オープンソース・プロジェクトが組み込まれています。
オープンソース AI 分野における Red Hat の取り組みは、InstructLab や Granite モデルファミリーをはるかに超えて、AI を実際に利用して生産的に使用するために必要なツールとプラットフォームにまで拡張されています。Red Hat は、増え続けるアップストリーム・プロジェクトやコミュニティに活発に参加し、以下をはじめとする多数のプロジェクトを独自に進めています。
- RamaLama:AI モデルのローカル管理と提供による負担を大幅に軽減し、複雑さを軽減することを目的とした、オープンソース・プロジェクト
- TrustyAI:より信頼できる AI ワークフローを構築するためのオープンソース・ツールキット
- Climatik:エネルギー消費に関して AI をより持続可能なものにすることを目的としたプロジェクト
- Podman AI Lab:オープンソース LLM を使った実験の促進に焦点を当てた開発者用ツールキット
Neural Magic に関する最近の発表では、Red Hat の AI ビジョンをさらに推し進めています。組織は、オープンソースライセンスのモデルを含め、最適化された小型の AI モデルを、ハイブリッドクラウドのどこにあってもデータと連携させることができるようになります。IT 組織は vLLM 推論サーバーを使用してこれらのモデルの意思決定と出力を強化し、透明性のあるサポート付きのテクノロジーをベースとする AI スタックの構築を支援できます。
Red Hat にとって、オープンソース AI はハイブリッドクラウドをその活躍の場とするものです。ハイブリッドクラウドは、AI ワークロードに最適な環境を選択し、パフォーマンス、コスト、スケーリング、セキュリティの要件を最適化するために切望されていた柔軟性を提供します。Red Hat のプラットフォーム、目標、組織はこの取り組みを支援します。業界パートナー、お客様、より広範なオープンソース・コミュニティとのコラボレーションに期待しながら、オープンソース AI のイノベーションを推進していきます。
AI 分野において、このオープンなコラボレーションを拡張する可能性は計り知れません。Red Hat では、モデルおよびそのトレーニングの透明性のある取り組みの未来を思い描いています。それは来週または来月のことかもしれません (AI の進化のスピードを考えればもっと早いかもしれません)。私たちは AI の世界を民主化して可能性を切り拓くため、限界を押し広げる取り組みの支援と導入を継続していきます。
執筆者紹介
Chris Wright is senior vice president and chief technology officer (CTO) at Red Hat. Wright leads the Office of the CTO, which is responsible for incubating emerging technologies and developing forward-looking perspectives on innovations such as artificial intelligence, cloud computing, distributed storage, software defined networking and network functions virtualization, containers, automation and continuous delivery, and distributed ledger.
During his more than 20 years as a software engineer, Wright has worked in the telecommunications industry on high availability and distributed systems, and in the Linux industry on security, virtualization, and networking. He has been a Linux developer for more than 15 years, most of that time spent working deep in the Linux kernel. He is passionate about open source software serving as the foundation for next generation IT systems.
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